田中将大はスプリットが原因で故障したのか?その原因の検証と復帰への課題

記事公開日時:2014年7月14日午前5時30分

田中将大がMRI検査のためにニューヨークに戻ったという話を耳にした時に、驚きとともに、やはりやってきてしまったかという思いが湧いてきました。

田中将大の成績は素晴らしく、MLB1年目のシーズンとしては出色の数字が並んでいたものの、それと同時に身体はいつまで持つのだろうかという懸念があったためです。

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多くのMLB関係者が田中将大は故障の可能性が高いと考えていた

以前にこのブログで書いた内容ですが、トミー・ジョン手術の増加の原因がスプリットとカッターの多用が原因ではないかと分析した米メディアの記事を紹介しました。

そしてその後に、田中将大が勝利したものの、4月のエンゼルス戦でスプリットの割合が投球の割合の28.7%に到達していたために、故障の危険があるという内容の投稿を書きました。

そのためいつまで故障せずに持つのだろうかという心配をしながらの観戦でしたので、驚きというよりは、ついにやってきたかという感のほうが強くありました。

右肘の靭帯部分断裂が痛みの原因と判明する前に、米メディアのESPNの評論家であるBuster Olneyがこの田中将大の故障を受けて、ある記事を書いていました。その記事の冒頭では、”I told you so(俺はそうなるといっただろう)”という4つのワードが多くのクラブハウスで繰り返された可能性が高いと書いています。

というのも、この2ヶ月で田中将大は素晴らしい投球で尊敬を集めた一方で、対戦した相手チームの監督、コーチ、打者、投手が「彼が故障するのは時間の問題だ」と感じていたからとBuster Olneyは述べています。

そしてそれらの結論に至ったのは、日本での投球数の多さや日本シリーズでの160球が理由ではなく、高速のスプリットを投げ続けていたからだとその理由を説明しています。

Olneyはスタッツを集計しているFan Graphsの数字を引用し、田中将大の全投球中のスプリットの割合は25.0%に到達していて、メジャーの規定投球回数に到達している投手の中で一番割合が高いと説明し、スプリットを多投している事実を示しています。

多くの対戦相手が感じていたように、Buster Olneyはスプリットの多投が故障の原因ではないか?という1つの分析をしているわけですが、このようなスプリットを故障の原因とする分析はアメリカのメディアの間でも多く出されている見解の1つです。

しかし、数字をより深く見ていくと、単純にスプリットの多投だけが故障の原因となったと言い切れない側面があることがわかります。

本当にスプリットの多投が原因で肘の靭帯を損傷したのか?

Fan Graphsのデータによると、今シーズンの80イニング以上を投げた投手の中でスプリットの割合が高い投手には以下のような投手が上げられます。

  • 岩隈久志:26.9%(1位)/84.6マイル(6位)
  • 田中将大:25.0%(2位)/86.5マイル(2位)
  • 黒田博樹:22.9%(3位)/86.3マイル(3位)
  • ダン・ヘイレン:16.0%(4位)/81.6(11位)
  • ミゲル・ゴンザレス:15.5%(5位)/83.7(9位)
  • ティム・ハドソン:14.2%(6位)80.8(12位)
  • ダルビッシュ有:2.4%(13位)/89.1(1位)

実はスプリットの投球数に占める割合では、岩隈久志は田中将大以上にスプリットを多投していて、規定投球回数には達していないものの、全投球の26.9%をスプリットが占めています。

続いて同じくFan Graphsのデータによるスプリットの平均球速ですが、田中将大のスプリットは86.5マイル(139.2キロ)で、ダルビッシュの89.1マイル(143.4キロ)は下回るものの、MLBでもかなり高速となるスプリットを操っていました。

他の日本人投手もスプリットを多く投げているのですが、黒田博樹も86.3マイル(138.9キロ)、岩隈久志も84.6マイル(136.2キロ)とかなり速いスプリットを投げています。

そして2013年のスタッツでも岩隈は全投球の22.8 %(85.4マイル)、黒田博樹は21.0%(86.4マイル)がスプリットとなっていて、この2人は2年連続で高速スプリットを多投していることになります。

特に黒田は球速としても田中将大と大差がなく、スプリットの投球割合も大きな差はありません。

ですが、黒田博樹は肩や肘に大きな問題を抱えていません。そして黒田博樹は田中将大以上に日本で投げてきています。ミスター完投と言われ、2001年には27試合中13試合で完投しているほどです。

なおかつ33歳でメジャーにきて、2009年に左わき腹を痛めた時以外は、ローテを守り続けてMLB7年目となる黒田博樹ですが、肘や肩は今のところ大丈夫です。ですが、田中将大はメジャー3ヶ月あまりで肘を痛めてしまいました。

何がこの差を生み出しているのでしょうか?

もちろん個々人の身体の強さは異なりますし、日々の生活の中での体調管理などの差も理由としてあげられます。

しかし、田中将大の投球フォームのメカニックに問題があり、肘や肩を故障しやすい腕の振りだと指摘している専門家がいました。それもこの故障が明らかになる前、2014年のメジャーが開幕もしていない時期にです。

2014年2月の時点で田中将大の投球フォームの問題をアメリカの専門家が指摘

Baseball Rebellionという野球のコーチングを行っているアメリカの会社のウェブサイトで、田中将大の投球フォームを解析しているのですが、その中でフォームのメカニックに問題があり、力をボールに効率的に伝えられていないだけでなく、肩や肘を故障しやすくなっていると2014年の2月末の時点で指摘していました。

この記事のライターはJustin Orenduffという人で、メジャーでの登板はなかったものの、2004年にMLBドラフト1巡目全体33番目でドジャースに指名されて入団した投手で、黒田博樹や斉藤隆と同じ時期にドジャースに在籍しています。

このJustin Orenduffの記事は「黒田博樹が田中将大の成功に重要な役割を果たせるのではないだろうか」というタイトルで書かれたものです。

田中将大がヤンキースに入ることが決まった時点で、黒田博樹が田中将大がMLBのスタイルに馴染むのに大きな助けとなるだろうと報じられました。

そのため、この記事のタイトルだけを目にすると、何も目新しい内容はないと思えるのですが、この記事では黒田博樹の役割はそれだけにとどまらないとしています。

その記事では、おそらく練習で黒田と田中がキャッチボールをするだろうから、その際に、田中将大のフォームの問題を黒田が気づいて指摘してあげれば、田中はより良いボールが投げれるし、将来的な肩や肘の故障を回避できるだろうから黒田の役割は重要だと述べていました。

つまり、この記事のライターは田中将大のフォームのメカニックには問題があって故障しやすいと、スプリングトレーニングがはじまったばかりの2月末の時点で把握していたことになります。

この記事では動画などを使いながら細かい分析を説明してくれているのですが、簡単にまとめてみると以下のような問題点が指摘されていました。

投球の際に、後ろに腕をテイクバックをするのですが、その際に肘が肩のラインよりも上にあがること。そしてその後、その手をトップの位置にふりあげていくのですが、その際に腕が地面に90度ではなく、45度でロックされてしまうこと。そしてその結果、腕が体から離れた位置でスイングしてしまうこと。などをあげていました。

もう少しわかりやすくするため簡単な図で示すと以下のようになります。

投球フォーム解析

A1とA2の図を比較して、A1の図のように田中将大は肩のラインよりも肘が上にいっています。実際にこのような肩の動かし方をするとわかるのですが、肘を肩より上にあげると、肩に大きなストレスがかかってしまいます。

そしてその後、田中将大はB1のように地面に90度ではなくC1のように45度に腕を振り上げてから、C2の図のようにホームプレート方向に体重移動して、体を開いていきます。

このことの何が問題なのかというとことですが、B1の状態であれば、その後、体を開いていく時に、腰の回転が使いやすく、腕もスムーズに前に運べるのですが、C1ではそれが難しくなります。そのため、田中将大はプレート方向に体重移動していきながら体を開いていく時に、C3のように体を倒す(のけぞらせる)ことでボールを前に運ぶことになります。

その結果、ホームプレート方向だけではない方向に力が流れてしまい、ボールに効率的に力を伝えることができず、その上、肩や肘だけでなく、体全体への負荷が大きくなります。さらに腕が体を離れた位置でスイングしてしまうことになり、肩から腕の筋肉に頼ってボールをリリースすることになりますので、どうしても肩や肘に余分な負荷がかかってしまうということです。

このBaseball Rebellionの記事では、黒田博樹は33歳でアメリカにきた後も安定した成績を残し続け、しかも大きな肩や肘の故障がなく、40歳になろうとしている今年もMLBで投げ続けられるのは、素晴らしい投球フォームをしているからだとしています。

そして、その黒田博樹が、田中将大のフォームの問題に気づいて教えてあげれば、田中が故障することなく、もっと素晴らしいボールを投げれるようになるだろうと、今年の2月の時点でJustin Orenduffは分析し、記事にしていました。

田中将大が多くの投手が苦しんだカベを乗り越えてくれることに期待

田中将大の肘の問題は、NPBとMLBのボールの重さや大きさの違い、マウンドの硬さや傾斜の違い、登板間隔の違い、そして個々人の身体の強さなど様々な要素が絡み合って故障が発生していると考えられます。

ただ、田中将大に近い割合で、しかもすでにシーズンを通じてスプリットを投げ続けた岩隈や黒田には大きな問題が今のところ発生していません。特に岩隈などは田中将大よりも線が細いのですが、1年間ローテションを守り続けて219.2イニングを2013年には投げています。

そのため、田中将大が開幕からわずか3ヶ月あまりで、故障してしまったのはスプリットが多かったことに加えて、このアメリカの専門家による解析のとおりにフォームのメカニックの問題もあると考えることができそうです。

仮にこの分析どおりにフォームのメカニックが肘に影響を与えたとなると、今後問題になるのは、同じフォームで投げ続ければ、いずれ同じ故障が発生する可能性が高いという事です。

田中将大はリハビリとともに、さらに深刻な事態を招かないように、フォームのメカニックの問題とも向き合う必要があります。また、今までのようにスプリットを多投できなくなる可能性があり、スライダーやチェンジアップで勝負するようなスタイルに変える必要に迫られる可能性もあります。

肘や肩を故障した投手が直面するのは、このような複合する問題を整理して、なおかつプロで通用するレベルのボールを再び投げれるようにすることです。

故障の後にこのようなカベを乗り越えれず、プロのマウンドを去ることになった素晴らしい投手はNPBでもたくさんいました。筆者の記憶に残る投手ではヤクルトの伊藤智仁、中日の今中慎二、ソフトバンク(ダイエー)の斉藤和巳など。

田中将大が越えていくべき問題は、ただ単に痛みをとるというだけでは済まない可能性が高く、困難な道のりとなるわけですが、本人のコメントのように力強く乗り越えて、再びマウンドで輝いてくれることを期待して待ちたいと思います。

この田中将大の投球フォームに関する解析をしていたBaseball Rebellionのサイトでは英語がわかる方にはより詳細に問題点がわかりますし、仮に英語がわからなくても、田中将大と黒田博樹のフォームを比較したGIF動画などもありますので、それを見るだけでも、黒田博樹のフォームには無理がないことがわかります。ぜひ、一度見ていだければと思います。(Baseball Rebellionの記事はこちらから)