オリオールズがチーム内の若い選手がカットボール(カッター)を投げることを事実上禁止するその理由とは?

Baltimore Orioles Top Catch

投手の肘の靭帯損傷・断裂によるトミー・ジョン手術の問題が大きく広がるメジャーリーグですが、様々な要素がその原因としてあげられています。

その肘の故障の原因の1つとして、日本人投手の多くが操るスプリットが肘に負担のかかる球種だとされ、ベテランがスプリットを投げることに規制はかけないものの、ファームの若い投手が投げることを制限する球団が少なくありません。

そのスプリットほどではないものの、肘に負担がかかると考えられている球種の1つがカッター(カットボール)です。

オリオールズでは、さらにカットボール(カッター)を若い投手に投げさせない方針であることをダン・デュケットGMが2012年に明言し、それが継続されています。

オリオールズの組織全体がカッターを好まない理由について

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オリオールズには投手のトッププロスペクトとしてディラン・バンディがいるのですが、そのバンディはカッターが「自分のベストピッチだ」と述べていたのですが、それでも基本的に投げさせないという方針で育成されています。

ダン・デュケットGMは以下のようにその理由を述べています。

“The philosophy of the organization is to encourage pitchers to develop a good delivery, command of their fastball, an off-speed pitch and a good breaking ball,” Duquette said. “The first breaking ball that we work with our young pitchers on is a curveball. (中略) “First of all, the cut fastball, we don’t like it as a pitch, OK? And we don’t like it for young pitchers because it takes away from the development of their curveball, which is a better pitch long-term and also, the velocity of their fastball.

管理人訳:「良い投球フォームとファーストボールの制球力を磨くことを投手に推奨することをオリオールズ傘下組織の指針としている。若い投手と取り組む最初のブレーキングボールはカーブだ。」(中略)「まず第一に、我々はカットファーストボールという球種は好んでいない。そして私たちは長期的に見て良い球種であるカーブの発達・開発の妨げとなり、ファーストボールの球速を奪うことにつながるので、その球種を若い投手が投げることを好んでいない。」

デュケットGMはカットボールを投げることにより、長期的にはより変化球として効果的なカーブを育成する機会を失わせ、さらにファーストボールの球速が落ちることにつながると述べています。

さらにデュケットは以下のように踏み込んでいます。

“Why don’t you take a look at the chart with the average against cutters in the big leagues, batting average against and then come back and tell me that that’s a great pitch,” Duquette said. “We don’t like the cutter. We don’t like the cutter as an effective pitch. Name me all the great pitchers that used it as their primary pitch in the big leagues.”

管理人訳:「メジャーリーグでのカッターの被打率などの平均値のチャートを見てみたらどうだ。その後にカッターが素晴らしい球種だと言ってくれ。私たちはカッターは好きではない。私たちはカッターを効果的な球種として好んでいない。カッターをメインの球種とするメジャーリーグの偉大な投手の名前を上げてくれ」

と、インタビューをしていたmasnsportsのSteve Melewskiに話します。

そうなると多くの人がカッターをメインの球種とする偉大な投手というと元ヤンキースのマリアノ・リベラを思い浮かべるわけですが、当然インタビューをしていたSteve Melewskiも浮かんだようで、リベラの名前をあげたそうです。

しかし、以下のようにデュケットは反論します。

“That’s a fastball. That’s a fastball. That’s his only pitch, he’s a one-pitch wonder. It’s his fastball,” Duquette said. “Name me all the pitchers in the big leagues that make a living with a cut fastball? Rivera’s is a fastball. It moves.”

管理人訳:「あれはファーストボールだ。ファーストボール。あれは彼の唯一の球種で、彼はワンピッチの奇跡だ。あれは彼のファーストボールだ。カットボールでやっていけているメジャーリーグの投手の名前を教えてくれ。リベラのそれはファーストボールで、それが動いているんだ。」

リベラの投球の内訳は、ボールのトラッキングを行っているPitch FXのデータによると、カッターが投球の89.04%、ファーストボールが10.92%とカウントされていて、投球の11%弱の割合でファーストボール(ツーシーム/フォーシーム)を投げていることになります。

そのため厳密に言えばカッターとファーストボールは分けられるべきです。しかし、リベラのカッターは一般的なカッターの握りとは違い、一般的なカッターと同様に考えにくい面があるのも事実です。

リベラのカッターの握りは、一般的なフォーシームの握りで、人並み外れた柔らかいリストと長い指を利用しながら、中指に力をいれることで打者の手元で急激な変化をさせていたとされています。

一方、一般的なカッターの握りはスライダーに近いもので、リリースのポジションやリリースの仕方などにより、スライダーと異なる打者の手元で鋭く曲がる動きになるとされています。

そのためデュケットの指摘するように、マリアノ・リベラのカッターの握りは、フォーシームファーストボールと同様なため、一般的なカッターを投げる投手に当てはめにくく、同様の投げ方ができるのは、ごくごく限られた人間のみになると言えます。

では、一般的なカッター(カットボール)の問題は何なのか?ということになるのですが、オリオールズで投手育成担当の責任者であるリック・ピーターソン(Rick Peterson)は以下のように説明しています。

“What happens is you start to get off to the side of the baseball (with your grip) and then you’re no longer consistently behind the baseball. Typically what we see is the more you throw that cutter, you can become dependent on it and you start to overuse it and typically what happens to guys that overuse the cutter is their fastball velocity drops. That has been consistent over the years.”

管理人訳:「ボールの側面を握るようになり、ボールの真後ろの部分を継続的に持たなくなる。一般的にカッターを多く投げれば投げるほど、それに頼るようになって、使いすぎるようになる。そして一般的にカッターを使いすぎた投手はファーストボールの球速が落ちるという現象が起きている。これはここ何年にもわたって起こっていることだ。」

そして「なぜ球速が落ちるのか?」という質問に対して、リック・ピーターソンは以下のように答えています。

“It’s the nature of the mechanics of throwing that pitch. Power guys that throw the fastball stay behind the ball consistently. When you start throwing that cutter you start getting off to the side of the baseball. If you want to take velocity off a pitch, get off to the side of the baseball. Your intent to throw the cutter is to take velocity off the fastball and flatten it out.

管理人訳:「カッターの投げ方のメカニックからくるものだ。ファーストボールを投げるパワーピッチャーは、指をボールの真後ろに置き続けることになる。カッターを投げ始めると、ボールの横の部分を握り始めるようになる。もし球速を落としたいのなら、ボールの横の部分を持って投げることになる。カッターを投げようとすることは、ファーストボールの球速を奪い、角度のないものにしてしまう。」

ややわかりにくい説明なのですが、もう少し噛み砕いてみたいと思います。

ファーストボールはボールの真後ろを持って、それをリリースする際に腕でボールを力強く押しこむことになる一方で、カッターはボールの側面のほうに指を置き、腕を押しこむのではなく切るように力を逃して、投げることになります。

その結果、ファーストボールを投げるとボールに真っ直ぐ力を込める分、腕の筋肉が鍛えられるのですが、カッターを投げるとボールを投げるときに力を逃すことになるので、徐々に腕の筋肉・強さが落ちていってしまい、ファーストボールの球速が落ちてしまうということのようです。

カッターはバットの芯を外すのに効果的で、かつ曲がりが小さいため、曲がりが大きいブレーキングボールよりもストライクゾーンにコントールしやすいため好まれています。

ストライクもとりやすく、バッターも打ち取りやすいという球種のため、ついつい頼りがちになってしまうのですが、長期的には球速が全体的に落ちるようになり、投手としての実力が低下してしまう懸念があるため、ファームの投手には投げさせない方針にしているということのようです。

そしてもう1つ、オリオールズがカッターを奨励しない理由は、デュケットGMが先のところで「メジャーリーグでのカッターの被打率などの平均値のチャートを見てみたらどうだ。その後にカッターが素晴らしい球種だと言ってくれ。」と述べた部分に現れています。

つまりデュケットGMは「カッターはそんなに素晴らしいボールではない」からだと述べていることになります。

では、それが実際にどうなのか?ということについて、ファングラフスのEno Sarrisが以下のようなメジャーリーグでのデータを公開しています。以下の被打率と被長打率は球種別のボールがバットに当たった際のものです。

  • フォーシーム:被打率.328/被長打率.542
  • ツーシーム:被打率.324/被長打率.496
  • カッター:被打率.313/被長打率.493
  • スライダー:被打率.311/被長打率.499
  • チェンジアップ:被打率.303/被長打率.493
  • カーブ:被打率.316/被長打率.491

Eno Sarrisはこのデータによると、カーブやチェンジアプよりは劣るものの、「ファーストボール(フォーシーム/ツーシーム)よりも、カッターのほうが優れている」と述べています。

Eno Sarrisはこのように指摘しているのですが、上記のデータを見る限り、変化球としてカッターが図抜けて効果的だとは言えないことも事実です。

また、デュケットGMやリック・ピーターソンは、カッターが故障につながりやすいとは述べていませんが、プロビデンスジャーナルのブライアン・マクファーソン記者が、「医学的にカッターは肘に負担をかける球種であると明らかになっている」と述べているように、一般的に故障の可能性が高いと考えられていることも、カッターを多く投げる上でのリスクと言えます。

そのためダン・デュケットGMがカッターを投げることを制限していることの理由として説明した先の発言の意図は、「より効果的な変化球と考えられるカーブを磨いたり、腕や肩の筋肉を鍛えることができるファーストボールを投げる機会を犠牲にしてまで、投げるほどの大きなメリットはカッターにはない」ということではないかと思われます。

リック・ピーターソンが、先に述べたデュケットGMとピーターソンの見解はさらに検証されるべきものであるとしたうえで、「若いパワーピッチャーが、投球の40%をカッターが占めるようになると球速が落ちる」というデータがあることを明らかにしているEno Sarisは伝えています。

このオリオールズの方針が明らかになったのが2012年8月のことで、このアプローチが正しいのかどうかは、今後のオリオールズのファームからどれだけ優秀な投手が輩出されるかという結果によって検証されていくことになります。

今後のオリオールズの投手のプロスペクトの動向も注目していきたいと思います。

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