バッティングの常識が変わる?フライボールを打つ技術が重視される時代が到来か

ダウンスイングでボールを捉え、ピッチャー返し、センター返しをするように心がけることを指導されるということは、野球経験者であれば少なからず体験したことではないかと思います。

この打撃理論は長らく主流であり続けているのですが、それが変わる時が近づいているのではないかとデータ解析で定評のあるFangraphsの複数のライターが「フライボール・レボリューション」という内容で記事にしています。

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主流の打撃理論が変わる?フライボールレボリューションとは

FangraphsのTravis Sawchik氏とJeff Salivan氏がシリーズのようにして、フライボールを打つ技術のほうが打撃成績の向上につながるのではないかとの分析を記事にしています。

その中でも秀逸なのがデトロイト・タイガースの主軸のひとりであるJ.D.マルティネスへのインタビューを軸にした“J.D. Martinez Debunks Conventional Wisdom, Thinks a Tipping Point Is Near”という記事です。

ラインドライブやゴロを打つことよりもフライボールを多くしようとするアプローチを、ジョシュ・ドナルドソン、ジャスティン・ターナー、そしてJ.D.マルティネスらが取り入れることで大きな成功をおさめているとTravis Sawchik氏は指摘します。

ジョシュ・ドナルドソンは2015年に41本塁打、123打点、OPS.939という成績でア・リーグMVPとなり、2016年も37本塁打、99打点、OPS.953でMVP投票4位となるなど、メジャー屈指のスラッガーとしての地位を築いています。その原動力となっているのがフライボールを打つ技術だとTravis Sawchikは分析しているのですが、ドナルドソン本人の練習にもその意図は現れています。

ボールの真芯ではなく、やや下側を意図的に打つことを繰り替えしています。そのためこのバッティングゲージでの打球も低いライナー性のものはなく、角度がついているものばかりです。

ドナルドソン本人も”Just say NO…. to ground balls.”(グラウンドボールは打たないよ)とツイートしています。

ドナルドソンはボールに角度をつけること、フライボールを多くすることが重要だと認識していて、意図的に取り組んでいることがわかります。

ドナルドソンと同様のアプローチを採用しているのが、ドジャースのジャスティン・ターナーです。30歳までは目立つような選手ではなかったのですが、2015年に16本塁打・60打点・OPS.861、2016年に本塁打27・打点90・OPS.832と成績を向上させ、メジャートップクラスの三塁手となりました。

そしてこの2人と同様にフライボールを多くすることで打撃成績を向上させたのがデトロイト・タイガースのJ.D.マルティネスです。

2011年から2013年にかけてアストロズでプレーしたのですが、打率.251・出塁率.300・長打率.387・OPS.687とさえない成績でレギュラーになれないレベルにとどまっていました。

しかし、フライボールを打つことに取り組んだタイガース移籍後は2014年から2016年にかけて打率.299・出塁率.357・長打率.540・OPS.898、83本塁打、特に2015年には打率.282/出塁率.344/長打率.535/OPS.879、38本塁打、102打点と素晴らしい成績を残せるようになりました。

フライボールを打つ打撃技術が旧来から良いとされてきた打撃技術にとってかわる時が来たのではないかと考えていたTravis Sawchik氏は、そのJ.D.マルティネス本人にフライボールを打つアプローチについてのインタビューを敢行しています。

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J.D.マルティネスが話すフライボールを打つ技術の重要性

以下は冒頭で紹介した記事からの引用です。

He suspects there will be many more players buying into his beliefs. But he’s frustrated that it took him so long to discover a hitting philosophy that’s effective but also runs contrary to conventional teaching philosophy. He’s frustrated he still hears so much conventional wisdom.

J.D.マルティネスは、「フライボールを打つ打撃技術をさらに多くのプレイヤーが取り入れるかについては懐疑的」なようです。しかし、彼は「旧来からの打撃理論と相反するものの、効果的な打撃理論があることを発見するのに多くの時間を要したことを不満に感じている」とのことです。

そして以下のようにJ.D.マルティネスは話しています。

“I always thought the perfect swing was a line drive [back to] the pitcher,” Martinez said. “I’d go out there and hit the ball perfectly, and it’s [a] single. Why is my perfect swing a single?

「いつもライナーをピッチャーに打ち返すことができるのが完璧なスイングだと考えていた。そして打席に立ってボールを完璧に捉えたら、それはシングルヒットになった。なぜ、完璧なスイングの結果がシングルヒットなんだ?」

“You still talk to coaches ‘Oh, you want a line drive right up the middle. Right off the back of the [L-screen in batting practice].’ OK, well that’s a fucking single. To me, the numbers don’t lie. The balls in the air play more.”

「コーチと話をすれば『ライナーでセンター返しをしろ』と話すだろうが、それではシングルヒットにしかならない。数字は嘘をつかない。フライボールの方が数字が良くなる」

J.D.マルティネスはフライボールを多く打とうとするアプローチが旧来からの打撃理論と衝突するものではあるが、自身の体験、そして自身が残した数字を見ても、前者のほうが明らかに有効なアプローチだと話しています。

そのインタビュー記事ではJ.D.マルティネスがフライボールを打つ方が打撃成績の向上に有効だということを知ったキッカケが紹介されています。

2013年のアストロズ時代に故障者リストに入った時にそのシーズン絶好調だったジェイソン・カストロのスイングを分析していた時に、そのことに気づいたようです。そしてそれが正しいものかどうかを確認するために、J.D.マルティネスは多くの打者のスイングを分析しています。

“I started looking at Trout, Braun, Pujols… Why does their swing look like that and my swing look like this? I’m doing everything the coaches tell me. I’m swinging down on the ball. In BP, I’m hitting low line drives everywhere. In games, it doesn’t play.”

「私はマイク・トラウト、ライアン・ブラウン、アルバート・プホルスらのスイングを見始めた。なぜ彼らのスイング(フライボールを打とうとする)はあのようなもので、私のスイング(ライナーを打とうとする)はこうなっているんだ?私はコーチから教えられているとおり、打撃練習ではダウンスイングでボールを捉えて、ライナーを打っている。でも試合ではやっていない」

キャリア通算で591本塁打、打率.309、2825安打、OPS.965で野球殿堂入りが確実なアルバート・プホルス、この5年間でMVP2回、MVP投票で2位3回とメジャーで最も優れた選手の一人と言えるマイク・トラウトなどのスイングは、打球に角度をつけるフライボールを打つためのものであることをJ.D.マルティネスは確認し、自分の技術として取り入れることを決めています。

コーチの指導方法に逆らうと出場機会を減らされてしまったりということもありますので、練習では従うものの、実戦ではフライボールを意図的に打つことでJ.D.マルティネスは打撃成績を向上させたということです。

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ボールの下を叩く技術がハイレベルな成績の原動力となる

フライボールを打つ、打球に角度をつけるためには、ジョシュ・ドナルドソンが取り組んでいるようにボールの下側を打つことが重要になります。

ボールの下側を叩くことができれば、ボールにスピンをかけて浮揚する力を強めることができ、長打が増えるためです。

この打撃技術は3度の三冠王となった落合博満が長けていたもので、それを取り入れた中村紀洋も成績を大きく向上させました。そしてそれは現在の日本プロ野球でも図抜けた成績を残している選手たちが重視しているものでもあります。

ウラディミール・バレンティンは山田哲人の打撃技術について以下のように話しています。

「ボールを遠くに飛ばすのに重要なことは、体のサイズではなく、ボールの下を叩くことなんです。ボールにバックスピンをかければ、打球は遠くに飛びます。僕は山田が19歳のときから見ているけど、彼はバックスピンをかける技術に長けていた。だから、山田があのサイズながらホームランをたくさん打つことに驚きはありません。」

引用元:Web Sportiva

日本のシーズン本塁打記録を持つウラディミール・バレンティンですが、あれだけの体格を持ちながらボールの下を叩くことを重視していることを明かし、それができるから山田哲人は素晴らしい成績を残していると分析しています。

山田哲人は180センチ、76キロとスラッガー、長距離打者としてだけでなく、プロ野球選手としても大きい体格ではありません。

スラッガーというと筒香嘉智、中田翔といった体格の良い選手のイメージが強くありますが、それには似つかわしくない山田哲人ですが、本塁打を量産しています。

そして山田哲人の本塁打はライナー性もあるにはあるのですが、それ以上に滞空時間の長い、高い放物線を描くものが多くあります。それはボールの下を叩いてスピンをかけてボールを浮揚させているためです。

山田哲人の体のサイズだけを見れば、プロ野球では中距離打者というイメージです。そのため打撃を開花させた杉村打撃コーチは以下のようなやりとりが過去にあったことを明かしています。

まず山田に聞いたのは、『ホームランが打ちたいのか、それともヒットが打ちたいのか、どっち?』ということでした。何事も本人が納得しなければ指導はできませんから」
 すると山田は、「ホームランが打ちたい」と答えた。
「じゃあ、50本から60本打てるのかと聞いたんです。そうしたら『そこまでは打てない』といった感じで、首をかしげていました。オレの意見としては、中距離打者として広角に打球をちらし、足を生かした方がいいんじゃないかと。『ホームランは20本でもいいだろう』って言うと、不機嫌な顔をしてね(笑)」

引用元:Web Sportiva

杉村打撃コーチも山田哲人を中距離打者タイプではないかと考えたのですが、ボールの下側を巧みに捉えてスピンをかける技術に磨きをかけることで、2年連続で38本塁打と体格の良い選手たちを上回る本塁打数を記録しています。

イチローは打撃練習ではボールにスピンをかけることで、誰よりも飛距離を出してスタンドインを連発させるため、MLBのオールスターのホームラン競争も打診されたこともありますが、体格は180センチ、80キロと山田哲人と同様です。

これまでのような内容を見ていくと、ボールの下を捉えることができる打撃技術を身につけることが出来れば、頭一つ抜けた打撃成績を体格にかかわらず残せるようになる可能性があるとも考えられます。

そしてこれは日本の打者にとっても朗報になる可能性があります。体格で劣る日本人が技術を高めることによって、世界でトップクラスの成績を残せるようになることも可能ではないかと考えられるためです。

「フライを打つ」というと「ゴロやライナーに比較してアウトになりやすい」という悪いイメージが残っていますが、「フライボールレボリューション」がそれを払拭して、主流の地位を占めるようになっていくのか、今後のトレンドを注目していきたいと思います。

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